金融課税


多様な事業体に対する課税

きっかけは金融ビックバン

金融市場の規制を緩和・撤廃し国際化を計るため、平成8年橋本首相は、いわゆる「金融ビッグバン」構想を打ち出しました。平成15年には小泉首相の下「貯蓄から投資へ」の流れが加速され、国民の貯蓄を新しい投資形態に誘導するため、多数の証券化商品が登場しました。そして、その投資先として様々な事業形態が登場することによって、間接金融から直接金融への流れを促進し、企業の資金調達を支援することとなりました。しかし、新しい事業形態が登場すると、それに対する課税問題が生じます。

法人格の有無で区分

所得課税の世界では、法人は事業を行うためのエンティティ(事業体)です。中小同族法人においては、個人事業を法人形態で行うことによって、高い累進税率を回避しつつ、法人に利益を留保し、留保利益の配当時期を操作することで、株主側の所得実現のタイミングを操作することができます。さらに、株主が非居住者となれば、租税回避的な行為もできます。事業主体としての法人は、出資により設立され、獲得した利益は、株主に配当されます。つまり、法人という事業体の特徴的な取引は、法人とその出資者間の取引です。そして、多様な事業体も、投資家(=構成員)からの出資と投資家への分配によって特徴づけられます。しかし、法人以外の事業体では、投資家相互間、および、投資家とその事業体との間で、様々な権利関係の組合せが認められています。これらの事業体に対する課税は、概ね、法人格の有無によって決せられます。民法上の任意組合や商法上の匿名組合、さらにLLPなどで生じた損益は、構成員で課税されます。しかし、信託では、これを法人とみなすことにより、法人税法の課税ルールが適用される場合があります。会社法上の厳格な制約を受ける法人とは違い、当事者間での比較的自由な権利関係の設計が認められているものについても、法人税法の課税ルールが適用されることがあるのです。

配当に対する3つの取扱い

法人が事業において獲得した利益には法人税が課されます。そして、法人税課税後の利益を株主等に配当した場合、①原則として損金不算入となります。これは、配当は、利益を算定するための要素とはならず、所得の計算上、損金に算入されない、という法人税法の所得計算上の基本ルールです。この原則は、法人とみなす事業体に対しても適用されます。また、特定目的会社や特定信託に対しては、二重課税排除の措置として、②配当可能所得の90%超の配当等をすれば、その支払った配当の全額を損金に算入するという例外的な取扱いも認められています。これを、ペイ・スルー課税といいます。しかし、法人とみなさない事業体については、事業体での課税が行われません。この場合、③事業体で生じた損益は、直接、投資家たる構成員に帰属します。これを、パス・スルー課税といいます。一定の信託については、課税上の理由により、法人とみなして法人税の課税のルールが適用されます。捕捉困難性などの理由から租税回避を防止することができる反面、信託の利用価値が大幅に下がりました。すなわち、信託を法人とみなすということは、取引の当事者間で経済的二重課税になるということであり、プライベート信託であっても上場企業と同様に扱われるということです(委託者が法人の場合、グループ法人税制が適用されることもあります)。法人税法は、そもそも営利を目的とする主体に適用される制度です。よって、経済合理性に反する無償取引については、取引の双方で課税されます。そして、そのような制度がファミリー信託にも適用されうるのです。

多段階課税を回避すれば、課税のタイミングが早められる

わが国の、多様な事業組織に対する課税ルールを大別すると、その事業体を法人とみなして法人税の課税ルールを適用するか、あるいは、その事業体を導管とみて、事業体には課税せず投資家の損益として(パス・スルー)課税するか、の二者択一となっています。事業体と投資家を通じた多段階課税を回避するという観点からは、パス・スルー課税が好ましいといえますが、その場合、事業体段階での未実現の損益が投資家の期間損益計算に反映されることになります。つまり、パス・スルー課税では、実際に投資の回収が行われておらず、納税資金が担保されていない状態であっても、投資家において課税されるのです。換言すれば、多段階課税を回避する反面、課税のタイミングが早められるということであり、いずれも一長一短があります。従って、一概にどちらが好ましいとはいえません。これに対して、ペイ・スルー課税は、一端、事業体で損益を認識するものの、一定の要件を満たす投資家への配当を損金に算入することで、事業体段階での課税を回避し、かつ、投資家への配当が行われるまでの間は、投資家での課税が繰延べられます。この点を踏まえると、上記①と③のデメリットを緩和した課税方式ということができます。また、法人たる投資家(=株主)の場合、受取配当金の益金不算入規定をはじめとした所得計算上の優遇規定を使用することができます。従って、個人で投資するよりも、法人で投資する方が、一般的に有利であるといえるでしょう。

形式的な「出資」と実質的な「配当」

最後に、多様な事業組織も、法人と同様に「出資と配当」によって構成されますが、法人税法における「出資」と「配当」は全く逆の規定ぶりとなっています。すなわち、出資は、法2条16号の定義規定を受けて、法令8条に詳細が規定されています。しかし、会社法等の取扱いを受けた形式的な規定であり、出資(=投資)に対する権利関係を私法上の取扱いに則して厳格に解そうとしています。これに対して配当は、法22条5項の規定で実質的に解しています。その解釈は、私法上の取扱いにかかわらず「株主としての地位に基づく一切の経済的利益の供与」とされています。