✮ 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置

(平成2541日〜平成271231日の限定措置)

 

 わが国の金融資産の大部分は65歳以上の高齢世帯が保有しています。本制度は、これらの金融資産を早期に若年世代に移転し、教育費の確保に苦心する子育て世代を支援するための制度とされています。つまり、祖父母から孫への贈与を制度の主たる利用形態として想定しており、一定の要件の下に、子育て世代の親への間接的な贈与を促進する措置ということができます。しかし、制度の柔軟性には注意すべき点もあり、慎重な検討が必要です。また、従来から、扶養義務者間(注1での教育資金等の贈与はグレーゾーンであり、これらの資金移転をクリア−にすることは、被相続人の隠れた支出を『見える化』することに繋がります。よって、被相続人の資金使途を把握するという意味で、課税当局にとってもメリットがあります。すなわち、扶養義務者が通常の生活費や教育費をその必要な都度贈与する場合には、従来から贈与税が非課税とされているところ、今回の改正は、事前に一括して信託した教育資金についても、金融機関にその使途をチェックさせることにより贈与税を非課税とするものです。忘れてはならないのが、必要な都度行われる教育資金等の贈与は依然として非課税である、という点です。

 

(注1)親子、夫婦のみでなく、祖父母と孫も扶養義務者の関係となります(相続税基本通達12-1

 

●扶養義務者相互間の生活費・教育費とは (従来からの取扱い)

従来から、扶養義務者相互間で必要な都度行われる適切な範囲の生活費や教育費の支援については、贈与税が非課税とされています。その範囲について、生活費とは、被扶養者の通常の日常生活に必要な費用をいい、治療費、養育費その他これらに準ずるものとされており、一人暮らしをする場合の家賃、食費も含みます。教育費とは、教育上通常必要と認められる学資、教材費などをいい、保育園から大学(院)までの入学金や授業料、さらには、海外留学費用も含まれます。また、ここでいう通常必要と認められるというのは、基本的に1か月間に支払ってしまうものをいい「被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲のもの」とされています。

 

『デメリット』

@使い切れなかった部分は、受贈者(子・孫)の30歳到達時に、贈与税として課税さます。

換言すれば、一端、信託した部分については返還が認められないことから、お孫様に贈与する額は、慎重に検討した上で、使い切れる範囲の教育資金とすべきでしょう。受贈者がお勉強や習い事をしなかった場合など、使い残した金額には贈与税が課されます。また、残額について一定の場合には相続税の対象となります。

A受贈者が教育資金を支出する都度、受託者(信託銀行等)の決裁を受けることになり、管理・手続きに手間がかかります(学校側の許可が必要なものもある)。

B信託の目的が教育資金の管理であり、引出しには金融機関に領収書等を提出することから、原則として、受贈者の教育資金以外の目的には使えないこと。

C贈与者に多額の財産がある場合は未だしも、一端、信託した教育資金は受益者の財産となるため、贈与者の老後の資金にまわせません。よって、“真水の資産”として、自由に使える資金を確保した上で本制度を利用すべきでしょう。

 

『メリット』

D贈与者(祖父母)の意思によって、早期に孫などの将来の資金ニーズに備えることができます。信託は受託者(信託銀行等)においても、別勘定として管理・運用されることから、確実に、(受益者の)資金使途を限定しておくことができます。

E贈与者の財産が信託契約設定時に減少します。そのため、直後に相続が発生しても、信託した資金は被相続人の相続財産として申告する必要がありません(相続税の申告時の3年以内贈与加算の対象にもなりません)。さらに、子・孫の数だけ信託を設定することで、被相続人の相続財産を大幅に減らすことができることから、相続発生直前の有効な相続対策となりえます。但し、相続発生直前の信託では、被相続人の意思能力等を踏まえ、贈与が有効に成立している事実を証明できるようにしておくべきでしょう。

F祖父母が委託者となって信託することにより、将来、親が支払うべき教育費の負担を軽減することになり、実質的には、推定相続人たる親への贈与を非課税とすることになります。また、子育て世代の親の家計負担を軽減することから、例えば、住宅ローンの支払いなど他の消費支出を支える効果が期待できます。

 

 (1) 概要

受贈者(30歳未満の者)の教育資金(注2に充てるために親又は祖父母が金銭等を拠出し(以下「非課税拠出額」)、金融機関に信託等をした場合には、信託受益権の価額又は拠出された金銭等の額のうち受贈者1人につき1,500万円(そのうち、学校等以外の者に支払われる金銭は500万円を限度)までの金額に相当する部分の価額については、平成2541日から平成271231日までの間に拠出されるものに限り、贈与税が課されません。

 

(注2教育資金とは、文部科学大臣が定める次の金銭(参照、文部科学省HP)

1 学校等に支払われる入学金その他の金銭

2 学校等以外の者に支払われる金銭のうち一定のもの (予備校や塾・習い事など)

 

(2) 申込時

信託銀行等への専用口座開設に先立ち、贈与者と受贈者間で書面により贈与契約を締結します。専用口座の開設に当たっては、受贈者(未成年のお孫様の場合、親権者との連名によります)から所定の申告書『教育資金非課税申告書(注3』を金融機関に提出します。信託に預けた資金は、預け入れ時点で贈与が成立し、受益者であるお孫様の財産となりますので、以後、委託者からの払戻しはできません。受贈者は、本特例の適用を受けようとする旨等を記載した教育資金非課税申告書を、金融機関(注4を経由し、受贈者の納税地の所轄税務署長に提出することになります。

 

(注3)『教育資金非課税申告書の用紙と記載要領

http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/pdf/201304_01.pdf

(注4本非課税措置にともなう金融機関への預け入れは、受益者1人あたり上限金額1,500万円までで1金融機関1営業所のみとなります。複数の金融機関・営業所への預け入れはできません。

 

(3) 払出時

受贈者は、払い出した金銭を教育資金の支払に充当したことを証する書類を金融機関に提出しなければなりません。金融機関では、提出された書類により払い出された金銭が教育資金に充当されたことを確認し、その確認した金額を記録するとともに、当該書類及び記録を受贈者が30歳に達した日の翌年315日後6年を経過する日まで保存することになります。

 

・「領収書払い」・・・お孫様には、受託者から専用通帳が交付され、通帳の管理と共に教育費に充てた領収書を信託銀行等に提出(又は郵送)する必要があります(コピー不可)。領収書払いの場合は、支払日から1年以内のものに限ります(領収書等の提出がない払出しや教育資金目的外の払出しは贈与税の課税対象となります)。

 

・「振込払い」・・・信託銀行等に教育資金に係る請求書等の必要書類を提出し、教育機関等への支払い手続きを信託銀行等に委託します(振込手数料要)。

 

(4) 終了時

1 受贈者が30歳に達した場合

イ 調書の提出(注5

ロ 残額の扱い

非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額については、受贈者が30歳に達した日に贈与があったものとして贈与税が課されます。

2 受贈者が死亡した場合(注6

 

(注5金融機関は、非課税拠出額及び教育資金等に充てた金額等を記載した調書を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出することになります。

(注6イ 調書の提出

金融機関が、その旨を記載した調書を受贈者の納税地の所轄税務署長に提出します。

ロ 残額の扱い

非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額について、贈与税が課されません。

 

●教育資金の一括贈与に係る教育資金とは (文部科学省HPより)

http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/zeisei/__icsFiles/afieldfile/2013/05/10/1332772_01_1.pdf

 (1)学校等に対して直接支払われる次のような金銭

@ 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費又は入学(園)試験の検定料など

A 学用品費、修学旅行費、学校給食費など学校等における教育に伴って必要な費用など

<「学校等」とは>

・学校教育法上の幼稚園、小・中学校、高等学校、大学(院)、専修学校、各種学校、外国の教育施設

〔外国にあるもの〕その国の学校教育制度に位置づけられている学校、日本人学校、私立在外教育施設

〔国内にあるもの〕インターナショナルスクール(国際的な認証機関に認証されもの) 外国人学校(文部科学大臣が高校相当として指定したもの)、外国大学の日本校、国際連合大学

・認定こども園又は保育所など

 

(2)学校等以外に対して直接支払われる次のような金銭で社会通念上相当と認められるもの

<イ 役務提供又は指導を行う者(学習塾や水泳教室など)に直接支払われるもの>

B 教育(学習塾、そろばんなど)に関する役務の提供の対価や施設の使用料など

C スポーツ(水泳、野球など)又は文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)

その他教養の向上のための活動に係る指導への対価など

D Bの役務提供又はCの指導で使用する物品の購入に要する金銭

<ロ イ以外(物品の販売店など)に支払われるもの>

E Aに充てるための金銭であって、学校等が必要と認めたもの