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所得税の計算

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 所得税の計算体系
 譲渡所得について
 事業所得について
 不動産所得について

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所得税の計算体系

10種類の所得区分と3種類の課税方法

個人の所得税では、所得の種類をその性質ごとに10種類のカテゴリーに区分した上で、各々に収入から必要経費等を控除したネットの所得を計算します(但し、利子等グロスの収入金額が所得となるものもあります)。また、税率を適用するに際して、10種類の所得の中から、総合課税の所得、申告分離課税の所得、源泉分離課税の所得に区別します (所得区分と課税方法はこちら)。総合課税では、他の区分の所得と合算して累進税率を適用します。申告分離課税は、総合課税の所得と区分して、一定の比例税率を乗じて税額を計算します。申告分離課税の例としては、土地建物等の譲渡による譲渡所得、株式等の譲渡所得等及び一定の利子所得や先物取引による雑所得等があります。源泉分離課税の代表例としては、預貯金や公社債の利子があり、受取時に税額が源泉徴収されて課税関係が完結していました。しかし、平成28年からは、公社債対する課税関係が変更されます。特に、同族会社が発行した社債について、その同族会社の役員等が支払いを受ける社債利子については、総合課税となることから、いわゆる小人数私募債を発行している同族会社については見直しが必要となります。

所得を種類ごとに区分計算するのは、所得の性質に応じた税負担を課すことで、公平な課税を実現するためとされています。例えば、給与所得・事業所得といった勤労所得については、高所得者には高税率を課し、負担に応じた課税を行う観点から、総合課税として累進税率を適用しています(応能負担の原則)。また、勤労所得ではない、不動産等の貸付から生ずる不動産所得、配当所得、一定の利子所得、雑所得などの資産性所得についても、経常的な所得として総合課税となります。他方、臨時的な所得である一時所得には、50万円の特別控除や2分の1課税が認められています。また、譲渡所得についても臨時的な所得ですが、譲渡のタイミングを操作する恣意的な損益通算などを防止するため、申告分離課税とされています。さらに、退職所得は、報酬の後払い的な性質を有し、老後の生活の糧となる所得であることから、給与所得とは区別して、特別に優遇された計算方法によって課税されます。他の所得カテゴリーのいずれにも属さないものが雑所得です。基本的に、雑所得に分類される所得は、バスケット・カテゴリーとして他の所得と損益通算ができないようになっています。しかし、金融所得一体化課税の観点から、申告分離課税を選択することにより、同一所得の範囲内では、損益通算及び損失の繰越控除が認められているものがあります。また、金融所得一体化課税の観点からは、重要な改正が相次いでいます。特に、上場株式等の譲渡所得及び配当所得については、平成25年度をもって10%の軽減税率(所得税7%、住民税3%)が廃止され、平成26年以降は、20%の税率(所得税15%、住民税5%)により課税されることになりますが、それに伴い、一定金額までの上場株式等の譲渡や配当を非課税にする「少額株式投資非課税制度」が整備されています。

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このように、所得税の計算では、10種類の所得区分と申告分離課税制度を設けることにより、損益通算(黒字と赤字の相殺)に制限を加えています。そして、その年度に生じた損失について、損益通算と損失の繰越しが認められる範囲は、所得の種類や性質によって異なります。

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譲渡所得について

譲渡所得は、申告分離課税の所得として比例税率により計算します。譲渡所得の範囲については、所得税法33条1項の「資産の譲渡による所得」とされています。この場合の「資産」として代表的なものは不動産や株式ですが、「経済的価値があって他人に移転可能なものすべてが含まれる」とされています(例えば、借地権設定に伴って土地の時価の2分の1を超える権利金を受取った場合、資産の譲渡があったものとされます)。また、「譲渡」という行為には、売却のほかにも、交換、代物弁済、現物出資、などが含まれます。

その他、贈与としての性質を有する、負担付贈与や離婚による財産分与も譲渡にあたり、譲渡所得の申告が必要となります。さらに、相続遺産分割の際、他の相続人に代償資産を交付する、いわゆる代償分割についても譲渡所得の対象となります。つまり、その行為が贈与であったり、相続時の遺産分割の手段であっても、譲渡所得として所得税の課税対象となるので注意が必要です。

資産を譲渡した場合の特例

以下のような資産の譲渡については、各種の特例を適用できる場合があります。しかし、適用の可否については慎重な検討が必要です。

※譲渡益に対する課税の減免

①マイホームを譲渡した場合(最高3,000万円の控除)
※親族等に対して譲渡した場合には適用できません。
②相続で取得した不動産・株式を一定期間内に譲渡した場合(取得費加算)
③土地等を収用等された場合(最高5,000万円の控除)
④保証債務を履行するために不動産を譲渡した場合など

※譲渡益に対する課税の繰延べ

①事業用の不動産等の買換えた場合
②事業用の不動産等の交換した場合など

※譲渡損失と他の所得との損益通算及び繰越控除

①マイホームを売却して譲渡損が生じた場合(一定額までの損益通算)
②マイホームを買替時に譲渡損が生じた場合(損益通算及び損失の繰越)
③ゴルフ会員権を売却して譲渡損が生じた場合(損益通算)など

ゴルフ会員権の売却は、総合課税となります。そのため、売却により生じた損失は、事業所得や給与所得など他の所得と損益通算することができます。ただし、ゴルフ場経営法人が破産した場合など、一定の場合には損益通算ができないので、注意が必要です。

譲渡所得とならない「資産の譲渡」

①資産の譲渡であっても、個人事業者が事業として行う棚卸資産の譲渡については、譲渡所得の対象とならず、事業所得となります。つまり、不動産や株式の譲渡であっても、事業として反復・継続的に行われるものについては、申告分離課税ではなく、総合課税として累進税率を適用するということです。
②生活用動産の譲渡についても、譲渡所得となりません。ただし、単価が30万円以上の宝石類や美術品などを除きます。また、事業用の動産(棚卸資産を除く)の譲渡については、総合課税となります。
③資力喪失に伴う強制換価手続による資産の譲渡については、譲渡所得税は課されません。
④その他、相続税の納付のために資産を物納した場合なども、譲渡所得税は課されません。

著しく低額な対価で資産を譲渡した場合

※同族会社等に対する譲渡・・・『みなし譲渡』

資産を売却した場合、当事者間で合意した売却価額を収入金額とします。しかし、資産の売却先が法人であり、しかも売却価額が時価の2分の1未満であるときは、売却した資産の時価が収入金額とされます。例えば、同族会社の代表者が、その会社に対して時価1億円の土地を4,000万円で売却した場合、1億円が譲渡所得の収入金額であるとして、譲渡所得の金額が計算し直されることとなります。その場合、時価より低額で譲受けた会社側では、時価(1億円)と対価(4,000万円)との差額に対して課税され、経済的二重課税となる場合があるので注意が必要です。なお、この場合の時価は、法人税時価を使用します。

※親族等に対する譲渡・・・『みなし贈与』

譲渡による売却価額が、その資産の取得費を下回る場合で、かつ、その売却価額が時価の2分の1未満であれば、譲渡による損失がなかったものとされ、譲渡者側の取得費は、譲受けた者に引き継がれます。この場合、譲渡者側では、売却価額を譲渡所得の収入金額として計算します。他方、譲受けた側では、対価と時価との差額が「みなし贈与」とされて課税されます。なお、この場合の時価は、相続税評価額を使用します。

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この他、同族会社や親族等に資産を高額譲渡した場合なども、相手方において課税が生じます。よって、これらの特殊関係者に対する譲渡では、常に時価を意識する必要があります。

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事業所得について

個人事業者は、事業主体であると同時に消費生活も営みます。そこで、個人事業者が事業用の棚卸資産や固定資産を生活のために消費した場合には、自家消費としてその事業に係る収入金額に計上することになります。また、支出についても、事業上の支出(これは、必要経費といいます)と消費生活支出を区分して、家事費又は家事関連費については、必要経費に算入できません。ここで、家事関連費とは、家事費と必要経費の両方の性質を持っている支出です。

このことを規定しているのが、所得税法37条1項です。この規定は、事業所得の他、不動産所得・雑所得についても適用されますが、それによると、必要経費の意義は次のようになっています。

・ これらの所得の総収入金額に係る売上原価
・ その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額
・ 販売費、一般管理費、その他業務上の費用で債務確定したものの額
・ 業務上の資産に係る償却費
・ その他、別段の定めによる支出

また、家事関連費については、使用割合・床面積割合など合理的な基準により按分した上で、事業用供用部分を必要経費とします。例えば、店舗兼住宅の場合、償却費や固定資産税・火災保険料・支払利息などを事業の用に供している床面積割合に応じて必要経費とします。また、自動車を事業の用とプライベートの用に供している場合、償却費やガソリン代、車検等の修繕費・自動車保険・自動車税は、使用割合基準により按分した上で、必要経費に算入します。
家事関連費の按分基準はこちら→経費科目別の按分基準

飲食店業や食料品販売業を営んでいる場合、自家消費の有無について注意が必要です。食料品などの棚卸資産について、残ったものは全て廃棄している、といってみても現実問題としては考え難いことから、一定の自家消費を計上していることが自然であるといえます。同様に、棚卸資産を従業員やその他の事業関係者に贈与した場合も、収入金額に算入することになります。また、在庫もゼロは考え難いことから、合理的な範囲で計上してあるべきです。さらに、スーパーのテナントなどでは、閉店前にレジを締めるお店も多いかと思います。締め後の売上について、調査時に計上漏れを指摘される場合も多いので、この点についても注意が必要です。

事業所得と給与所得との区分

事業者から役務提供の対価を受取る場合、それが給与所得となのか、あるいは事業所得となるのか、という問題が生じることがあります。これらは、支払側の源泉徴収の問題と消費税の問題にも絡んできて、実務でも判断が難しいところです。受取側では、給与所得の場合、概算経費控除が認めてもらえますが、事業所得の場合は、実額経費で計算されることになります。しかし、事業所得から生じする損失については、他の所得との損益通算及び損失の繰越等が認められており、どちらが有利とは一概にはいえません。

例えば、個人が役務提供をして、事業者から外注費として対価の支払を受けても、その実体が給与であれば、事業所得とはならず、給与所得となります。両社の区分について、給与所得は「他人の指揮監督に服して従属的に労務を提供している場合」などが該当します。他方、事業所得は「自己の危険と計算において独立して役務の提供を行い、リスクについても自らその責任を負う場合」などが該当します。これらを踏まえて、その判断基準をまとめると、以下のようになります。

・ その業務や役務について他人が代替しうるものか。
・ 時間的・空間的な拘束を受け、報酬がそれに基づいて計算されるか。
・ 作業の具体的内容について、報酬支払者から指揮監督を受けるか。
・ 成果物が不可抗力により滅失した場合も報酬を請求できるか。
・ 成果物の不良・欠品等による損失を負担させることができるか。
・ 材料又は用具等を報酬の支払者から供与されているか。

事業所得と雑所得との区分

さらに微妙な問題として雑所得との区分があります。これは、雑所得が他の所得との損益通算を認めない、いわゆるバスケット・カテゴリーとしての機能を有することから、租税回避的な所得については、雑所得と認定されるケースが考えられるからです。

一般的に事業といえるための要素として、その経済活動の反復・継続性の他に、事業規模や物的・人的資源の有無が勘案されます。しかし、事業といえるための規模については、その営む事業によって様々であり、従業員を雇用せず事業場を有しないからといって、直ちに事業に該当しないとはいえません。結局、判例においては、様々な要素を「総合勘案」し、「社会通念上事業といえるか」どうかによって決せられる場合もあります。つまり、個別の事実認定の問題であるといえます。

事業所得では、他に正規の職業を有しながら副業的な所得を得て、その副業から生じた損失を事業所得とすることにより、損益通算を受けようとする租税回避が考えられます。このような場合には、その副業的な所得によって生計を維持することができるかどうかが、事業所得とすることができる重要な要素となります。

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したがって、損失を生じ易い投機的な所得や当初から赤字が見込まれるような経済活動による所得は、雑所得となる可能性が高いといえます。

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不動産所得について

不動産所得とは、不動産等(不動産の上に存する権利、船舶又は航空機を含む)の貸付けによる所得をいいます。但し、事業所得又は譲渡所得に該当するものは除きます。なお、臨時的な不動産所得について、一定の要件を満たすときは、平均課税による税額計算の特例が認められています。

収入計上時期については、権利確定日(収入すべき日)です。賃貸料は通常、翌月分を前月末までに支払うことになっているため、12月末時点での1月分の賃料の受取は前受金として処理することになります。

不動産所得と事業所得との区分

・ 不動産貸付業は不動産所得ですが、販売、仲介、斡旋は事業所得。
・ 月極め駐車場は不動産所得。時間極め駐車場は事業所得か雑所得。
・ 従業員宿舎の賃貸料収入は事業付随収入なので事業所得。
・ ビルの屋上や側面の看板使用料は不動産所得。店舗内は事業所得。

上記の区分とは別に、借地権設定に係る権利金収入の額が土地の時価の2分の1を超える場合には、その権利金収入は譲渡所得となります。

損益通算の留意点

・ 不動産所得の計算上損失が生じた場合、その損失のうち土地取得に
  係る負債利子については、損益通算の対象とはなりません。
・ 別荘など生活に通常必要でない資産を一時的に貸付けたことなどに
  より、生じた損失については、損益通算の適用はありません。

資産損失の留意点

その不動産貸付けが、事業的規模で行われているかどうかで、資産損失(賃貸用建物等の取壊し・除却により生じた損失)に対する取扱いが異なります。

建物を貸付けている場合の事業的規模は、次のようになっています。
・ 貸間、アパートの場合・・・貸与室数が概ね10室以上であること。
・ 独立家屋の貸付け・・・概ね5棟以上であること。

【事業的規模の場合】
その全額を必要経費に算入します。

【事業的規模以外の場合】
資産損失控除前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入。

資産損失に伴って生じる取壊費用や立退料は、通常の必要経費。
建物付きで土地を購入して1年以内に建物を取壊す場合の取壊費用や立退料は、土地の取得価額に算入します。

賃貸料の回収不能の留意点

その不動産貸付けが、事業的規模で行われているかどうかで、賃貸料の回収不能額の取扱いも異なります。

【事業的規模の場合】
回収不能となった年分の必要経費に算入します。

【事業的規模以外の場合】
賃貸料収入に計上した年まで遡って、その回収不能額に対応する所得がなかったものとして、所得金額の計算をやり直します。